
痔日帰り手術を可能にした
低侵襲手術の概念と技術
低侵襲の指標
下記に示す項目が低侵襲の指標です。
術後痛み | 手術時間 |
出血量 | 麻酔時間 |
切除範囲(創の大きさ) | 手術範囲 |
低侵襲の効果表
CO2レーザーメス | 組織損傷が少ない、出血量が少ない 手術時間の短縮 |
括約筋オーバーストレッチ | 術後痛みの軽減 |
展開テープ、ストレッチ&リリース法 | 術後痛みの軽減 手術時間の短縮 |
アンダーマイニング技術 | 手術創が小さい 術後痛みの軽減 |
仙骨硬膜外麻酔ボーラス注入法 | 麻酔時間の短縮 |
痔核郭清 | 術後痛みの軽減 |
手術ジオン併用療法 | 切除範囲の縮小 |
レーザーメス2つの利点
痔核、痔瘻、裂肛手術のいずれの手術においてCO2レーザーメスは極めて有用なデバイス


①フォーカスビーム(焦点が合っている光線)は組織損傷が少なく、デフォーカスビーム(焦点が合っていない光線)は止血能力が高い特徴を持ちます。病変との距離とレーザー出力によって無段階に調節することができます。これを巧みに使いこなすことで出血や組織ダメージの少ない病変の切除を行うことができます。
クランプトレーザー法の痔核切除やダブルドレナージの痔瘻の剥離には出血せず手術ができます。
②非接触性に病変を切除することができるため、中空からレーザー光線で複雑な形態の病変をトレースするだけで切除することできます。
複雑に変化したスキンタグ(肛門皮垂)、慢性裂肛に伴う歪な周堤、走行が複雑な痔瘻など他のデバイスと比較して容易に繊細な手術が可能です。
アンダーマイニング手技
肛門の機能を守る繊細な技術


表皮を失うことなく皮下組織を剥離し病変のみを摘出する技術です。表皮を失うことがないため肛門の開閉機能の温存や良好な創傷治癒に有効です。 クランプトレーザー法の痔核郭清(痔核摘出)はこの技術で行われます。
仙骨硬膜外麻酔ボーラス注入法
麻酔量は半分で体にやさしい

仙骨硬膜腔に麻酔薬を注入

麻酔薬を圧力をかけて注入する方法です。麻酔の効果が早く、麻酔量も一般的な半分の量済み体への負担が少ない麻酔方法です。
一般的に2%の濃度の麻酔薬を使用しますが、ボーラス注入法では1%の濃度を使用します。さらに、麻酔の立ち上がりの効果は優れ、仙骨硬膜外麻酔で稀に起こる「*片効き現象」も起こりません。
また腰椎麻酔後に発症する頭痛(低髄圧性頭痛)も起こりません。低濃度の麻酔薬で効果も良く、体に優しく日帰り痔手術に適切な麻酔法と考えます。
当院の痔手術の全ては仙骨硬膜外麻酔ボーラス注入法で行われています。
※片効き現象とは麻酔の効果が片側だけに効く現象。
括約筋オーバーストレッチ手技
肛門手術後の痛みを大幅に軽減


肛門術後に起こる痛みの主原因は括約筋の緊張と攣縮によるものです。この現象はストレスが起こった場所の筋肉を緊張させ体を守る反射、筋性防御反応に起因します。
筋肉は緊張すると痛みを発し、攣縮を起こすと耐えがたい強い痛みを起こします。(肩こりやこむら返しをイメージしてください)
下部直腸から肛門外縁の臀部に関わる筋肉まで愛護的にしっかりとオーバーストレッチ(過伸展)行うことで、肛門括約筋の緊張と攣縮を予防でき、術後に痛みのない排便ができます。
ドレナージ創は最後に形成
肛門の皺に合わせてドレナージ創を形成


便(汚物)を排泄する肛門の手術は肛門内の創より分泌液や便(汚物)などを導くために肛門内から肛門外縁に至るまで創を形成します。これをドレナージ創(排泄創)といいます。
このドレナージ創の形成に際しては、手術中は肛門を開いた状態にするため展開テープを伸展していますので、それを解除して肛門が閉じた状態(通常の肛門の状態)にて肛門シワに合わせて形成します。術後の肛門の形や良好な創傷治癒の視点において重要と考えます。
一般的な痔核の手術(LE法)はドレナージ創の形成→痔核切除の順です。
クランプトレーザー法は痔核切除→痔核郭清(摘出)→ジオン注射→ドレナージ創形成の順です。
展開テープのストレッチ&リリース法
肛門のシワに沿った綺麗な手術創




手術中は肛門を十分に開口させるために肛門の左右に貼った展開テープを手術終了まで伸展した状態で行うのが一般的です。術後の肛門の状態が想定できず、術後に歪みの皮膚(スキンタグ)を形成したりすることも少なくありません。
術中に展開テープを進展と解除を行ない肛門が閉じた状態を想定して手術を行うことで、術後の肛門の形(美観)や肛門開閉の機能にとっても有効です。手間を惜しまず、展開テープのストレッチ&リリース法を行うことが重要と考えます。
ドレナージ創の形成にとっても重要な技術です。(ドレナージ創はを最後に形成の項.参照)
手術とジオン注射の併用療法
切除範囲小さく痛みも少なく術後合併症予防



ジオン注射は内痔核に直接注射して内痔核を縮小させる治療法です。手術と併用することにより切除範囲は縮小して手術侵襲は軽減できます。また最大の合併症である術後出血の予防に有効です。ジオン併用療法後(クランプトレーザー法)の出血の合併症はゼロです。日帰りの痔手術には必須のものと考えます。
クランプトレーザー法は痔核切除+痔核郭清(摘出)+ジオン注射の併用療法です。
痔核郭清の概念と効果
手術の根治性を向上させ術後の痛みも軽減


痔核切除は皮膚粘膜(表皮)とともに痔核を取り除くことです。痔核郭清は表皮は失わず皮下の痔核のみを摘出することです。
進行した痔核では肛門開閉機能の温存のため痔核切除のみでは根治手術が難しく、痔核の残存を余儀なくされることがあります。痔核郭清では表皮を失わず、肛門開閉機能を障害することなく痔核を取り除くことができる、進行した痔核でも根治を目指すことができます。痔核切除と合わせて行うことにより、根治性の高い、また創が小さく痛みの少ない手術を行うことができます。
クランプトレーザー法は痔核切除+痔核郭清+ジオン注射の併用療法です。
手術後の安静の考え方
術後翌日からの仕事に制限をしない
術後安静の考え方も以前とは大きく変化しています。消化器外科、整形外科、脳神経外科、多く診療科で早期離床が行われています。肛門科も同様です。日常生活を通常通りに行うことがリハビリとなり良好な術後経過を導きます。当院では肉体労働を含め、翌日からの仕事に制限をしていません。
低侵襲手術の種類
病名 | 手術名 |
痔核根治手術 | クランプトレーザー法 |
裂肛根治手術 | レーザー周堤除去オーバーストレッチ法 |
痔瘻根治手術 | ダブルドレナージ法括約筋温存開放術 |
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