院長コラム第5回
クランプトレーザー法の将来性
― 痔核手術の未来を切り拓く標準術式として ―
クランプトレーザー法
1.パークス法とクランプトレーザー法に共通する基本概念
クランプトレーザー法とパークス法は、痔核を 「皮膚・粘膜下層に存在する病変」と捉える点において、同一の基本概念を共有している。
この概念は、1958年に天才外科医と称された パークス(Parks)によって提唱されたものであり、 痔核の本質を正確に捉えた、きわめて理想的な発想であった。
すなわち、皮膚や粘膜を共に切除するのではなく、 皮膚粘膜下層に存在する痔核病変のみを確実に除去すればよい という考え方である。
2.理想的でありながら普及しなかったパークス法の限界
パークス法は概念としては正しかったものの、 当時は十分な止血デバイス(医療機器)が存在しなかった。
そのため、以下の問題を抱えていた。
- 術中・術後の止血管理が極めて困難
- 術者の技量による仕上がりのばらつきが大きい
- パークス本人は実施できても、他の外科医には汎用化できない
結果として、 「理論的には優れているが、誰にでも行える手術ではない」 と評価され、 1938年に確立されたミリガン・モルガン法(結紮切除術)が、 より現実的な選択肢として標準術式の地位を占めることとなった。
3.手術デバイスの進化がもたらした転機
パークス法が提唱されてから約30年後、 我々は血流を遮断する「クランプ」という発想と、 組織侵襲の少ないCO2レーザーメスを組み合わせ、 さらに当時存在しなかった硬化療法(ジオン注射)を併用することで、 安全性と汎用性を高めた クランプトレーザー法という新しい手術法を発案した。
CO2レーザーメスは、以下の特性を有している。
- 適切な止血能
- 周囲組織への熱損傷が極めて少ない
- フォーカスビームによる精密な剥離操作
特にフォーカスビームを用いることで皮膚粘膜下層の剥離が容易となり、 真皮層が露出する「白い壁(ホワイトウォール)」 という明確な指標が得られる。 これにより、痔核病変のみを確実かつ安全に 剥離・除去することが可能となった。
4.アンダーマイニング手技(痔核郭清)による完成度の向上
クランプトレーザー法では、 余剰な皮膚は痔核とともに切除し、 残存する痔核は痔核郭清によって除去する。
その際に用いられるのが、 皮膚・粘膜を温存し、皮膚粘膜下層の痔核のみを剥離・切除する 「アンダーマイニング手技(痔核郭清)」 である。
- 創の形態が整う
- 良好なドレナージと創傷治癒が両立する
- 肛門の自然な形態と機能が保たれる
5.汎用性と再現性を備えた現代的術式へ
皮膚粘膜下層の剥離には一定の外科的技術を要するが、 CO2レーザーという明確なデバイスと 視覚的指標の存在により、 本術式は比較的短期間(約半年程度)のトレーニングで 習得可能である。
実際に多くの医師に指導してきたが、 高度な熟練を要さず、 術者間の仕上がりのばらつきも少ない。
これは、 「パークスにはできたが、他の医師にはできなかった手術」 という歴史的課題を、 現代の技術によって克服したことを意味する。
6.クランプトレーザー法の未来
クランプトレーザー法は、以下の特性を兼ね備えている。
- 痔核の本質を正しく捉えた基本概念
- 低侵襲で安全性の高い手術デバイス
- 高い再現性と汎用性
- 日帰り手術を可能とし、翌日から仕事制限を要しない術後QOL
これらの点から、 クランプトレーザー法は今後の痔核手術における 「標準術式」 となるべき素因を十分に有していると考える。
文章責任 八王子クリニック 井藤尚文


