院長コラム第10回
クランプトレーザー法開発までの流れ
― 痔核治療の歴史的変遷と「日帰り根治手術」への到達 ―
はじめに
痔核治療は長い歴史の中で発展を遂げてきたが、その本質的な流れは大きく二系統に分類される。
すなわち、
1. 痔核を「破壊・縮小」する治療
2. 痔核を「切除」する外科手術
である。
前者は低侵襲性を特徴とし、後者は高い根治性を特徴として発展してきた。しかしながら、いずれも単独では限界を有していた。
クランプトレーザー法は、これら二系統の治療概念を統合し、さらに肛門機能および痔核病態の再考察を加えることによって開発された、新しい概念の痔核根治術である。
Ⅰ.破壊・縮小治療の進化
1.「切らずに治す」という治療概念
古くから痔核治療には、
・焼灼療法
・冷凍療法
・腐食療法
・結紮壊死療法
など、「痔核を壊死・縮小させる」保存的治療が存在していた。
これらは時代とともに改良され、やがて粘膜下の痔核組織のみを選択的に硬化・縮小させる「硬化療法」へと発展した。保され、非排便時には創が閉鎖されることで創傷治癒が促進される。すなわち、クランプトレーザー法は、ドレナージと創傷治癒という相反しがちな二つの要件を、創の構造そのものによって同時に満たすことを可能とする術式である。
2.硬化療法の進歩
初期の硬化療法(Paoscle など)は、一時的改善効果に留まることも少なくなかった。
その後、より高い根治性を目的として登場したのが、ALTA療法(ジオン注射)である。
ALTA療法は、
・痔核血流の減少
・線維化による痔核固定・縮小
を惹起することで、従来法より高い治療成績を示した。
3.硬化療法の限界
一方で、ALTA療法の主適応は下部直腸の内痔核であり、
・外痔核
・中間痔核(管内痔核)
・皮膚成分優位病変(肛門皮垂)
に対しては限界が存在した。
したがって、依然として「切除手術」の必要性は残されていた。
Ⅱ.切除手術の歴史
1.ホワイトヘッド手術の時代
初期の代表的根治術として、ホワイトヘッド手術が存在する。
本術式は、
・肛門を一つの臓器単位として捉え
・痔核を含む肛門組織を環状切除し
・下部直腸粘膜と肛門外縁皮膚を吻合する
という概念に基づいていた。
当時としては画期的な根治術であったが、術後において、
・肛門狭窄
・粘膜脱
・排便機能障害
などの機能的合併症が問題となった。
すなわち、
「痔核を根治する一方で、肛門機能を損なう」
という重大な課題を有していた。
2.ミリガン・モルガン手術への進化
その後、現在の標準術式の原型となるミリガン・モルガン手術(LE法)が確立された。
本術式では、
・痔核を静脈瘤性病変として捉え
・流入動脈を結紮し
・痔核を部分切除する
という概念が導入された。
さらに、術後感染予防の観点から、手術創を開放創として残すという特徴を有していた。
この術式により、ホワイトヘッド手術と比較して肛門機能温存は大きく進歩した。
3.従来切除手術の問題点
ミリガン・モルガン手術は高い根治性を有する一方で、
・強い術後疼痛
・術後出血
・長期入院
・長い社会復帰期間(ダウンタイム)
といった問題を依然として抱えていた。
特に現代社会では、
・日帰り治療への需要
・早期社会復帰への要求
・低侵襲医療への期待
が急速に高まり、従来の「入院前提手術」では十分に対応しきれなくなっていった。
Ⅲ.ハイブリッド手術の登場
こうした背景の中で、
「ミリガン・モルガン手術+ALTA療法」
を組み合わせた、いわゆるハイブリッド手術が登場した。
本術式では、
・下部直腸内痔核にALTA療法を併用し
・切除範囲を縮小し
・出血軽減を図り
・日帰り化を目指す
という工夫が行われた。
しかしながら、
・術後疼痛
・創部ダメージ
・ダウンタイム
などの問題は依然として残存し、現実には比較的軽症例への適応に留まる側面も存在した。
Ⅳ.クランプトレーザー法の開発
1.開発目的
クランプトレーザー法は、
「日帰り根治手術」
を前提として開発された術式である。
その目的は、
・術後疼痛の極小化
・術後出血の極小化
・根治性の維持
・肛門機能の温存
・早期社会復帰
を同時に実現することであった。
2.基本概念
クランプトレーザー法は、
・「破壊治療」の低侵襲性
・「切除手術」の根治性
を融合した術式である。
さらに、
・痔核病態の再考察→痔核の本体は、皮膚粘膜下の病変が主体、皮膚粘膜は二次的に主張しているもの
・肛門機能の再考察→肛門は開閉する動的臓器である。開閉時にドレナージが効くため、大きな開放創は不要
・手術創の再考察→痛みや早期早朝中の視点において、手術創は小さい方が良い
を基盤として構築された。
3.術式構成要素
本術式の中心概念は、
(1)痔核郭清の再考察
病変のみを選択的に処理し、正常皮膚・粘膜を最大限温存する。
(2)CO₂レーザーメスの導入
蒸散切開により、
・微細切開
・組織損傷軽減
・出血抑制
を可能とした。
(3)ALTA療法との併用
出血リスクの高い下部直腸の内痔核に対して安全で有効。切除範囲を少なくできる。
(4)肛門機能温存を重視した創設計
排便機能および自然ドレナージ機構を重視した※1低侵襲創を形成する。
※1低侵襲創とは小さな創で早朝創傷治癒が可能なさ
Ⅴ.クランプトレーザー法の治療概念
クランプトレーザー法 方程式
(痔核切除+痔核郭清)×CO2レーザー+ALTA療法
本術式は、いわば「超ハイブリッド手術」とも表現し得る概念である。
この組み合わせにより、
・極小創による低疼痛化
・排便恐怖の軽減
・排便リハビリテーションの円滑化
・術後出血リスクの低減
・短期間での社会復帰
・日帰り根治手術の実現
を目指した。
さらに、30,000例を超える臨床経験において、全例日帰り手術として施行された点も特徴的である。
Ⅵ.結語
クランプトレーザー法とは、
痔核治療における
・「破壊・縮小治療」
・「切除手術」
という二つの歴史的潮流を統合し、
さらに、
・痔核病態生理
・肛門機能
・低侵襲創設計
を再考察することで成立した、新しい概念の痔核根治術である。
本術式は、
・肛門機能温存
・高い根治性
・低侵襲性
・日帰り医療
・早期社会復帰
・全病型痔核への対応
という現代医療の要求に応えることを目的として開発された。
すなわちクランプトレーザー法は、
「次世代型痔核根治術」
として位置付けられる、“スーパー(超)ハイブリッド手術”である。
文章責任 八王子クリニック 井藤尚文


